影の会話
詩:アンリ・ペリエ・ギュスタン
絵:またきけいこ
訳:とみながしんや
月のない夜に 浮かぶ船 波の音が聞こえる
『舟上で赤子が生まれた!
へその尾にはまだ血が残り 夜の冷たさの中で眠っている
人びとが葦で編まれた寝台をのぞき込んでいる
若い母親が子供を腕に抱いている
月が昇ってきた 空には満天の星
母親は置きざりにされた姉妹たちを見やる
混雑した桟橋から老人がその影をじっと見つめる
生まれたばかりの子の周りで人々が動めいている
カモメが飛び立つ
肌色の違いに意味はない
半影が彼らを結びつける
蛍の群れが雲を照らし 雨がぱらぱら降る 夏の嵐
黒い粉のような水面に 生命の始まりを待つ卵の列
満月の中 新たな旅に驚きながら
短髪の若者が言葉を失っている
まだ生傷が痛むのだろうか?
塩水が燃えるように染みる
暗闇の中で風が水しぶきを払う
人びとのお腹は痩せ細っている
桟木にもたれかかった老婦人が膝まずいて
月明かりの中で祈る
船首には仮面で形作られた顔が立っている
亡霊のように目が聞いている そして夜に叫ぶ』
藻が揺れる 波のささやきが一瞬の影に溶け込み 夜明けの光の中 舟が漂っている